Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

    “秋も多忙”
 


地震や台風、津波に噴火といった自然災害から、
人為の事件や事故のみならず、
今年は、思わぬ伝染病の劇的な感染に、
憤懣からか、それとも純然たるイデオロギーからの克己蜂起か、
意図様々な紛争までと。
色んなことが“これでもか”との のべつ幕無し、
連綿と次々に起きる昨今であり。

 “とんでもなく豪雪だった割に、
  春が異様な駆け足でやって来て、
  桜も前倒しの ずんと暖かだったことなんて、
  もう誰も覚えてないんだろうよなぁ。”

そうでしたね、三月の半ばから急激に暖かくなった春でしたね。
異常気象は もはや定番で、
季節の変わり目には
寒いのと暖かいのが行ったり来たりする方が自然なのに、
これも異常気象の一つですかねなんて
言い出す人まで出る始末ですが。(笑)
最近のことは覚えていられず、
その割にとんでもなく昔のことはあれこれ覚えてて、
あの頃は良かったなぁなんて言い出すのは年を食った証拠なんて言いますが、
その伝で言うと、それとは真逆だろう若々しさ、
つか…やっと十歳になった辺りという年頃の坊やが、
そんな方向の感慨に耽っているのもどうかと。
ふわりとエアリーなくせっ毛の金髪を、
秋の陽へ綺羅らかに映えさせて、
練習着でトレーニングにと励んでおいでの
むくつけき大学生らが集まるグラウンドまで
悠然とやって来た小さな坊やへ、
気づいた顔触れがさっそくにも気安いお声を掛けて来る。

 「…お、今日は休みかと思ったが。」

週末といやゲームがあるのが 秋のアメフト。
特に、高校でも大学でも日本一を目指す正念場だけに、
どの試合へも万全を期して向かうのだが。
出場する選手や部員のみならず、
コーチだマネージャーだ主務だといった、スタッフの皆様も、
それぞれのお役目に集中して奔走なさっており。
今日は試合日ではない当校らしかったものの、

 「明日は試合だ、そんなワケなかろうよ。」

こちらも、賊大フリル・ド・リザードの ある意味で要(かなめ)、
小さな鬼軍曹殿が、土曜だというに午後からの登場で。
秋も深まり、朝晩は冷えるようになって来て、
特にここ数日はその落差がまた激しかったが、
まさかに そんなせいでの遅刻でも無さそうで。

 「運動会は済んでるよね。学芸会の打ち合わせとか?」

土曜といや、小学校もお休みのはずだが、
そういった演目のため自主的に集まっていたのかなと、
そこは年相応なことを訊いたのが
主務や女子マネを束ねるメグお姉さん。
さすがに、彼女へは横柄な口を利かない坊っちゃんで、

 「そういうんじゃなくってサ…。」

というか、あんまり楽しい御用ではなかったか、
むむうと愛らしい口許をすぼめて尖らせ、
スムースジャージのパーカージャケットのポッケから、
小さめに折り畳まれたチラシを取り出す。
ポスターに使うような堅い紙のそれには、
鮮やかな写真がプリントされてあり、
爽やかな笑顔の青年のバストショットに重なって、
大きめのゴシック体の文字が躍る。
曰く

  ―― 2015年版 桜庭春人カレンダー、発売記念握手会

 「ああ、そうか。そういう時期だったねぇ。」
 「〜〜〜うん。」

一頃よりはアメフト優先とはいえ、
相変わらずに芸能活動も続けておいでのアイドルさんは、
アメフトが随分と広い知名度を得て来たせいもあり、
こういった関連グッズも 結構な売れ行きを保っているそうで。
となると、小道具みたいにいつも登用されて来たこちらの坊ちゃんも
いちいち販促関わりのあれやこれやへ引っ張り出されるのがお約束。

 「桜庭は、ヨウちゃんが困るなら
  学業に触るとかどうとか言って
  もう卒業したがってるって伝えるよって
  言ってくれてんだけどもな。」

辿り着いたフィールド脇のベンチへ腰掛け、
ちょいと力んだところが、
この幼さで一丁前に切れ長な印象を与える目許を
やや泳がせる彼で。

 「? どしたんだい?」
 「うん…あのな、」

メグさんにだけということか、
小さなお手々を衝立みたいに口のわきに立てて見せるので。
お姉さんもその長身な身をかがめ、
内緒話しやすいよう、お顔を寄せてやれば、

 「桜庭はアメフトで活躍してるから、
  そういうグッズの宣伝にも、
  時々ケーブルテレビが協賛してるんだな。」

 「うん。」

 「だから、俺も
  さりげなくウチのグッズの帽子かぶってとか、
  マスコット付いてるタオルを首にかけてとか、
  そういうことやって、
  ファンのお姉さんたちの関心を集めてるって訳だ。」

 「…あ、それでかぁ。」

試合のあるシーズンでないときも、ポーチだのタオルだの、
サイトの通信販売コーナーへの引き合いがあるそうで。
何も収入を見越しているのではなく、
あくまでも知名度UPを目指しての販促活動なのが

 “泣かせるねぇ。”

宣伝や告知を打たずとも、
スタジアムが一般のファンで埋まる
一部リーグの人気チームと違い、
よほどに追っかけてくれる層でもなければ
なかなか会場まで 足を運んでくれないのが実情。
そこまでの手前、
せめてこういうチームがあるってことを知っててねと、
身内には小悪魔、鬼軍曹として恐れられてる素顔を押し隠し、
可愛いマスコットとして頑張ってもいる看板娘。

 「誰が娘だって#」

こっちも身内扱いか、場外へ吠えかかった小悪魔様だが、

 「おお、来たのか。」

グラウンドの外回りをランニングして来たらしき主将殿。
額に小汗をにじませつつも、
屈強精悍な肢体も勇壮に、
息も切らさずの颯爽と現れたところが余裕を感じさせ。
ほれとメグさんが放ったタオルを受け取ると、
顔や首回りを拭う姿も何とも男臭く決まっておいでで。

 「……う〜ん。//////」

坊やの来訪へ表情がほぐれた葉柱だというに、
そんなところへも気づかぬほど、
ややや…/////と ちょっぴり紅潮しちゃった坊やを見澄まし、

 “もしかして、
  チームにファンがついて賑わうのはいいけど、
  ルイにファンがつくのは
  ちょっとヤダとか思ったんじゃなかろうか。”

さすがはメグさん、そんなところもお見通しだったようで。

 「? どうした、カレンダーは売れなかったのか?」

 「売れたよ、たくさん。
  ついでに俺が写ってるとこ抜粋のポストカードもな。」

だから、桜庭本人だけじゃなく、俺も駆り出されたんだしよと。
照れ隠しかぶっきらぼうに言い放てば、

 「…その話は聞いてねぇが。」

おやまあ、主将さんたら声が低くなっておりますが。
そして、それだけでピピンと来たらしき坊やが、
ご機嫌一転、ふふーと嬉しそうに微笑ったのまで、
一通りを目撃しちゃったメグさん、

 「御馳走様vv」

 「あ?」
 「えっとぉ。/////////」

ぽんぽんと肩を叩かれた葉柱当人はキョトンとし、
察しがよすぎる誰かさんが、ますますと真っ赤になった、
何とも温かい空気の漂う、
試合前日の土曜の昼下がりだったのでありました。





    〜Fine〜  14.10.18.


  *いやまあ、前日というと調整が主体でしょうから、
   ほんわかほのぼのしてたって構いはしないんでしょうけれど。
   こういうところで微妙に察しが悪い葉柱さんだと、
   私もメグさん同様に嬉しかったり致しますvv


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